KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭2020 特別インタビュー
日本および海外の重要な写真コレクションを、京都市内の美術館、ギャラリー、寺院や歴史的建造物といった特別な空間に展示し、伝統工芸職人や最先端テクノロジーとのコラボレーションも実現するなど、京都ならではの特徴ある写真展として 2013 年から毎年開催されている「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」。今年は新型コロナウイルスの影響を受けて開催が延期されていましたが、9月19日(土)〜10月18日(日)に開催されます。
今だからこそという思いや意気込みで開催準備を進めてきたKYOTOGRAPHIE共同創設者・共同代表の仲西祐介氏と、KYOTOGRAPHIEを3年連続で協賛を続けるマツシマホールディングの松島一晃副社長のインタビューです。
KBS京都放送「京bizX」で2020年9月11日に放送された「ビジタネ特別編」から、放送されなかった部分を含めたインタビュー全文をお送りします。
- ――9月19日(土)からKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭2020が始まります。まだまだ新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますし、収束も見えないなかですが、京都でアートイベントが始まります。そこで、コロナ禍におけるアートについて考えてみたいと思います。KYOTOGRAPHIEの仲西裕介代表と、スポンサーを続けているマツシマホールディングス松島一晃副社長にお伺いします。
まず、仲西さん。コロナ禍で様々なイベントが中止を余儀なくされているなか、KYOTOGRAPHIEはやりますということになりましたが、結構勇気がいることではないですか?(竹内弘一、以下、竹内)
- 仲西祐介(以下、仲西)KYOTOGRAPHIEは毎年4月の半ばから5月の半ばまでの1カ月間開催しているのですが、今年の3月から4月は深刻な状態で、春の開催は延期することにしました。夏にはコロナが鎮静化して秋には開催できるだろうと期待して、9月半ばから10月半ばに延期すると発表をしたのですが、そうしたらまさか夏にまたコロナの第2波が猛威を奮ってきました。その時に悩んだのですが、かなり長い間みなさんが色々なことを中止されたり自粛されたりしているので、このままずっとこの状態を続けるわけにはいかない、僕たちみたいな民間運営のインデペンデントな団体がやることで、それが様々な方に勇気を与えたりとか、きっかけを与えたりとかできるのではと思いまして、KYOTOGRAPHIEを実施することにしました。
© Omar Victor DIOP / Courtesy of KYOTOGRAPHIE
片山真理《25 days in tatsumachi studio/鈴木薬局 眼鏡部 Suzuki Pharmacy Optometry #002》2015年
- ――今年は例年に比べると少し規模の縮小を余儀なくされたところがあると思いますが、どんなKYOTOGRAPHIEになるのですか?(竹内)
- 仲西展示の数を少し減らしまして、春から秋に期間を移したことで会場が借りられなかったりして、大規模な展示があまりないというのがひとつ。たくさんの人を集めるイベント、シンポジウムやトークイベント、コンサートも毎年やっていましたが、あとパーティーも、そういうのはまだリスクが高いのではないかということで、今回はオンライン上でライブ配信という形で実施する予定です。
- ――マツシマホールディングスのKiwakotoも展示スペースをつくるということで、会場が建仁寺の両足院ですが、こちらはどんな展示になりますか?(竹内)
- 仲西KYOTOGRAPHIEにここ3年協力をいただいているマツシマホールディングスさんのKiwakotoというブランドは、京都を中心とした日本の伝統工芸の職人さんの技術を今の生活にいかしていくという活動をされています。今回KYOTOGRAPHIEのプログラムのなかに、日本中の伝統工芸の若手の職人さんのポートレートを撮影している外山亮介さんという写真家がいまして、そのポートレートと実際に作っている工芸品を一緒に展示します。それがKiwakotoさんの活動にぴったり合っていたので、ここをサポートしていただくことになりました。
左から、マツシマホールディングス 松島一晃副社長、KYOTOGRAPHIE 仲西祐介共同代表、KBS京都放送 竹内弘一キャスター
- ――マツシマホールディングスは、KYOTOGRAPHIEだけでなく、他のアートのイベントに対しても意欲的にサポートを続けています。今回コロナ禍にあって、自動車のディーラーをされていますので、大きなダメージもあったと思うのですが、業績が厳しいですからスポンサーやめときますと言っても、誰も怒らないと思うのですけど、それでもこのアートイベントのKYOTOGRAPHIEを支えようと思われたのは、どうしてなのですか?(竹内)
- 松島一晃(以下、松島)弊社はディーラー業だけでなく、飲食業、ハイヤー業、フィットネス事業などもしていますので、ダメージということでは小さくはありません。今回スポンサーを見送ろうかと実際頭をよぎることはあったのですが、こういう時こそアートが必要なのではないかという結論に至りました。アートというのは人間の心を動かすものだと思いますし、勇気をもらえたり、楽しさや嬉しさだったり、アートを通して社会を知るきっかけになったり、文化を知るきっかけになったり、周りの人たちに思いを馳せるきっかけになったり、そういうものだと思います。コロナ禍で社会が不安に追われている時こそ、アートの力が必要なのではないかというのがひとつ。
もうひとつ、仲西さんをはじめKYOTOGRAPHIEの皆さんとは、ここ3年間一緒に色々なことを相談し、助け合ってきたなかで、今回の開催に向けてものすごく苦労をされてきたということもあります。こういう時に助けられずに何がサポーターだスポンサーだ、というのが私たちの会社のスタンスであり信念ですので、今回も引き続きスポンサーをさせていただいています。
- ――新型コロナウイルスというものが出てきて、生命を維持していく、病気にかからない、かかってしまっても治していく、生きていくことが一番大事だと気づかされました。それと同時に、生活必需品というのがあって、それが食料品であったり、トイレであったり、生命を維持するのに必要なことを今回見直しました。でもそういう日々が続いていくなかで、人間というのは心があって、美しいもので感動して、色々なものに影響されて生きているというのがよくわかって、そのなかでいうと、アートというのは生活必需品でなくて、幸せで過ごせるための「幸せ必需品」だなと私自身も思いました。
アートなんて生きていくために必要ないのではと言う方もいらっしゃるかもしれませんが、いやいやそれは人間が幸せになるためには必要なものなのですよ、ということが言えるようになった機会でもあったと思うのですが、そのあたりどうですか?(竹内)
- 松島おっしゃる通りだと思います。弊社は自動車が中心ですが、自動車とアートはすごく近いところがあると個人的には考えています。自動車の移動という側面に着目すれば、利便性という価値にスポットが当たります。移動するだけだったらどんな車でもいいと思うのですが、わざわざ自分がこの車が好きだからといって選ぶところに、もっと情緒的な自己表現だったり自分らしさだったり、そういったものを表現するようなもうひとつの価値が自動車にもあると思います。
特に弊社が取り扱いさせていただいている車は、後者の情緒的な価値を持っている車が多いと思いますので、それがアートを応援させていただいている大きな理由です。
特にコロナ禍にあって、目に見えない人間としての感情的な情緒的な価値を、もっともっと大切にしていかないといけない時代になってくるのではないかと思っています。
- ――そのあたりの価値に気づいた企業と、いや大変だからやめておきますと言う企業が、今回はっきり別れたなと私も見ています。今までどちらかというと、こういうアートの支援は、余裕の中で行われてきたというのもありましたし、景気がいいなかで利益がたくさん出て、そのなかで社会貢献活動であるとか、アートに協賛しようかなというのがあったと思います。今回コロナ禍で、KYOTOGRAPHIEにとって協賛企業はどんな存在なのか、そういうところがはっきり見えてきたというか、色々お考えになったと思うのですが?(竹内)
- 仲西KYOTOGRAPHIEの場合は、様々な企業に協賛をいただいてやっているのですが、やはり今回わかったのは、大企業や外資系の企業は、文化貢献とは言っていますけど、こういったアートイベントへの協賛というのは広告的な期待が大きくて、広告的な効果を狙ってやっていることが多いということです。それで少し業績が下がると、そこを簡単にカットされてしまって、今回かなり大きな企業とか外資系の企業で協賛を降りられるところが多かったです。
そのなかで地元京都の企業がなんとか踏ん張っていただいたのは本当にありがたいことで、マツシマさんは京都の伝統工芸の技術を後世に残そうと活動をされていたり、色々なアートやスポーツに協賛されていたりするのですが、やはりちゃんと信念があってされているというのが今回すごく感じて、本当に嬉しかったです。
- ――今回マツシマ ホールディングスさんは、もちろんスポンサーとしての資金の提供というのがあると思いますが、それ以外にも色々な関わり方をされているのですね?(竹内)
- 松島資金の提供というのはもちろんなのですが、自動車会社ですので車両の提供であったり、お客様を会場にお連れするツアーを企画させていただいたり、建仁寺両足院での外山亮介さんの展示をサポートさせていただいております。
- ――外山亮介さんは、どんなフォトグラファーですか?(竹内)
- 仲西外山亮介さんは、東京の染め物の家系の息子として生まれましたが、自分が家業を継がないで家業が終わってしまい、写真や映像の業界で仕事をしていたのですけど、作家としていつか伝統工芸の職人たちを支える作品を作りたいとずっと思っていました。10年前にまずはフィルムの中判カメラを持って、全国の若手の自分と同じぐらいの世代の伝統工芸の職人さんたちを訪れて、10年後を思い浮かべてくださいと言ってシャッターを切ったのですが、それが「種 SEED」というシリーズです。その10年後、アンブロタイプといって150年ぐらい前の写真が初めて生まれた当時の技術で、ガラスにそのまま写真のイメージを焼き付ける方法があるのですが、そのカメラを自分で作りまして、等身大の写真が撮れる大きなカメラで、それをバンに載せて全国を回って、もう一回10年後のその職人さんを撮影しました。
- ――それは時間も手間も半端ない、10年仕事ですね。(竹内)
- 仲西日本の伝統工芸の未来について、すごく自分の中で心配があって、自分ができなかったことがずっと心に残っていたのでしょうね。
- ――写真というと昔はフィルムで、それがデジタルになり、そして携帯電話に付き、今やスマホやタブレットでめちゃめちゃきれいな写真が簡単に撮れるという世の中になりましたけど、そんな世の中にあっても、そういう150年前の表現方法や、フィルムにこだわるとことによって、やはり深みとか味わいとか出てくるのですか?(竹内)
- 仲西今の若い伝統工芸の職人たちが対面している問題といいますか、今の伝統工芸の技術も新しいテクノロジーが入ってきたり、いろんな新素材が入ってきたりして、どんどんどんどん崩れていっています。写真もそうなのですが、どんどんデジタルになってきて、昔の技術が消えていっています。そういう伝統工芸を今でも続けている人たちを撮るのに、外山さんは写真本来のやりかたで撮りたかったというのがあったと思います。
まるごと美術館 妙覚寺《 工芸 / 共生 / 光景 》展 2019年 ©︎ 外山 亮介
- ――その表現方法をぜひ会場でチェックしていただきたいと思います。
写真といえば、今回KYOTOGRAPHIEの開催に合わせてマツシマホールディングスもInstagramを使ったフォトコンテストを開催されますね。(竹内)
- 松島Instagramを使ったフォトコンテストは、アートでありながら誰でも手軽にできるというのがひとつの魅力だと思います。第1回もさせていただいて非常に好評ということもあって、今回このKYOTOGRAPHIEの開催に乗っからせていただいて、第2回を開催させていただきました。ハッシュタグで「#クルマと私の町」と書いていただければエントリーできます。今回、仲西さんと竹内さんにも審査員としてご協力いただいておりますので、是非みなさまご参加いただけたらと思います。
- ――Instagramはすごく人気がありますし、だれでも日常の風景などを写真に切り取って、気軽に参加できるのがいいところですよね。(竹内)
- 仲西ほんとうに技術が進んで、誰もがアートを作れる時代になってきましたので、それはいいと思いますね。一部の階級だけにあるようなものだと逆に伸びていきませんので、みなさんに平等にチャンスがあるというのは、いいことだと思います。
- ――新型コロナウイルスの感染拡大から半年ぐらい経ち、イベントの開催ということについて制限がなくなりつつありますが、それでもやりますよと手を上げる勇気があるイベントは、なかなか無いと思います。もちろん感染防止対策を徹底するのが前提ですが、経済も回さないといけないし、アートで心を豊かにしていただきたい。その復活の狼煙をあげるイベントがこのKYOTOGRAPHIEだと思うのですが、あらためて仲西さん意気込みを聞かせてください。(竹内)
- 仲西KYOTOGRAPHIEはここ数年、17〜18万人ぐらいの方が全国からそして海外からも来ていただいていますが、今年はコロナ禍でなかなか海外や遠方からの来場は厳しいでしょう。今年のプログラムは、ローカルとインターナショナルというのをテーマに作っています。マツシマさんのような京都の企業から支援をいただいて、私たちは京都の面白さをさらに掘り下げていきたいなと思っています。ローカルが元気になれば日本も元気になると思いますし、世界も元気になると思いますので、まずはローカルで盛り上げていきたいと思います。
- ――最後に、マツシマホールディングスさんから、KYOTOGRAPHIEへエールを送ってください。(竹内)
- 松島今回開催に向けてたいへんなご苦労とご尽力をされてきたと思います。そのなかでも特に新型コロナウイルス感染予防というところに力を入れていらっしゃると思いますので、オンラインというお話もありましたけど、ぜひみなさまに会場へ足を運んでいただきたいなと思います。コロナ禍でデジタル化というのが大きく進んだと思うのですが、デジタルが進めば進むほど、五感で感じるみたいなところの価値が高まっていくと思います。会場に足を運んでいただいて、アートというものを五感で触れていただくことで、この世の中の不安を吹き飛ばすエネルギーになっていくと思います。そういったイベントになることを心より祈念しております。
- ――京都は文化の街、アートの街ということを考えますと、京都に住んでいる人間が会場に出かけて、色々な刺激を受けて、文化的に元気になっていかなくてはと思います。今年来場者が少なくなったとなると、京都の文化度を試されている気がします。もちろん感染対策をしっかりした上でお出かけいただいて、心の充電をしていただきたいなと思います。京都の皆さんぜひお出かけください。私も全会場を制覇するぐらいの勢いで見にいきたいと思います。(竹内)
-
9/19 Sat.無料配信KYOTOGRAPHIE 2020
Kick Off オンライン・パーティー
今年で8回目を迎え、京都ならではのロケーションを舞台に世界各国から選び抜かれた写真で街全体が満たされる日本有数の国際写真フェスティバルとして全国にファンを持つKYOTOGRAPHIE、その記念すべき開幕当日の9月19日(土) 夜20時から、今年は無観客配信にて「KYOTOGRAPHIE 2020 Kick Off オンライン・パーティー」をCLUB METROから配信します。2020 年のテーマ「VISION」にちなみ、DJやVISUAL、沖野修也氏を迎えてのTALK SESSIONなどを交え、KYOTOGRAPHIE 2020の待望の開幕を祝います!
<KYOTOGRAPHIE 2020 Kick Off Online Party>
■ 2020年9月19日(土)
■ 配信時間:Start 20:00 JST〜 23:00 JST
■ 配信URL(無料):https://twitch.tv/metro_kyoto
■ DJ:
LOFTSOUL aka UCHIKAWA
Masaki Tamura (Do it JAZZ!)
Aiconga (Our Latin Way)
■ TALK SESSION:
沖野修也×仲西祐介(KYOTOGRAPHIE)
■ VJ:CRACKWORKS
https://www.metro.ne.jp/single-post/200919
KYOTOGRAPHIE
京都国際写真祭2020
会期:2020年 9月 19日(土)〜10月18日(日)
会場:京都府庁旧本館ほか京都市内各所
主催:一般社団法人KYOTOGRAPHIE
共催:京都市、京都市教育委員会
サテライトイベント:KG+(ケージープラス)
公式URL:https://www.kyotographie.jp/