最高の高揚感を、東京オリンピックで感じたい。プロ7人制ラグビー・林大成選手
プロ7人制ラグビー・林大成選手 ✖️ マツシマホールディングス常務・松島鴻太
2020年2月、株式会社マツシマホールディングスは、7人制ラグビー(セブンズ)東京オリンピッック代表候補の林大成選手とスポンサー契約を締結しました。チームに所属せず、フリーランスのプロアスリートとして「競技力の向上」と「7人制ラグビーの認知と発展」を目指し活動する林選手は、マツシマホールディングスと浅からぬ縁があります。高校大学と、共にラグビーに打ち込んだ、松島鴻太常務との対談をお届けいたします。
プレイする、観る。ラグビーの楽しさが凝縮された「セブンズ」。
- ――マツシマホールディングスとして林選手を支援することになったきっかけは。
- 松島実は、私自身が林選手とは長いお付き合いです。そのご縁で、弊社の社長も林選手を10年以上応援してきたという経緯があります。
- 林松島常務とは東海大仰星高校、東海大学と同じラグビー部で苦楽を共にしました。お父様である松島社長も、長年僕のことを気にかけていただいています。高校3年の花園(全国高校ラグビー大会)が終わってからはマツシマホールディングスの店舗で洗車のアルバイトをさせていただいて、大学時代も試合の応援にきてくださった際にいつも声をかけていただきました。
- ――林選手のどんなところが魅力だったのでしょう。
- 松島何よりもその行動力です。良い意味で「とんがった」、人と違う不思議な力があるところではないでしょうか。そして情に厚い男です。自分ひとりで何かを起こす、実行する、新しい場所を切り開く。例えば今、これほどSNSを駆使するラガーマンはいません。その熱意が今、オリンピックに出場して勝つことに向いていますね。
今回、彼がチームに所属しないセブンズラグビーの選手として東京オリンピックを目指すということで、オリンピックまでとことん競技に集中してもらいたいと、マツシマホールディングスとして林選手とスポンサー契約を結び、支援することを決めました。
- ――林選手は大学卒業後、プロチームに入団されました。
- 林大学卒業後、キヤノンイーグルス(キヤノンのラグビー部)に入団しました。もともと指導者志望で、社会人ラグビーは考えていませんでしたが、指導者になるにしても、トップリーグでの経験の有無で説得力が変わります。1年だけでもトップリーグでプレイして、それから指導者の道に進もうと考えました。チームに入って3年目に、セブンズ日本代表の合宿に行かせてほしいとキヤノンのGMに申し出て連絡を取ってもらい、OKが出て合宿に合流し、セブンズに移行していきました。
- ――セブンズラグビーは日本ではまだマイナーなスポーツですが、どんなところが魅力なのでしょうか。
- 林「ラグビーって楽しいな」と思えるのがセブンズではないでしょうか。正面からのぶつかり合いは15人制ほど多くないですが、会場がおおおーっと沸くビッグプレイが出やすい。抜いた、抜かれた。止めた、止められた。観て楽しく、わかりやすい。そういうプレイがセブンズには多いです。それに試合時間が前半7分+後半7分と短いので展開が早く、凝縮された魅力があります。一方、15人制ラグビーは楽しいというより「ラグビーっていいな、素晴らしいな」と、心を打たれるような競技だと思います。ワールドカップで体格の小さな日本人が大きい相手にスクラムで勝つといった、心に響くシーンが多いですよね。
- 松島セブンズはがグランドが15人制と同じ広さなのに、選手の人数は半分。トライも多い。それに華やかな個人技が多く出て、観る側にも楽しいです。その分、選手はむちゃくちゃしんどいですよね。
- 林合宿もたいへんですよ、走りまくりますから。そもそも人数が少ないので、セブンズの練習に待ち時間は全然ありません。ずっと動きっぱなしです。1試合の時間が短いので、大会ともなると、11時、15時、19時と一日に3試合することもあります。
アドレスホッパー+ステップチャレンジ=「さすらいラガーマン」誕生
- ――所属チームも定まった家も持たない活動スタイルは、「さすらいラガーマン」と呼ばれているとか。どうやってこのスタイルができあがっていったのでしょうか。
- 林セブンズでオリンピックを目指すと決めたときに考えました。15人制のチームに所属している限り、そのチームから報酬を受け取るので、チーム再優先の時間の使い方になるのは当たり前のことです。チームの都合で、セブンズから招集がかかっていても行けないこともあります。この状態では、「セブンズ代表としてオリンピックで勝つ」という目標の達成は遠いと感じました。
自分は全力でセブンズに賭けないと納得できないと思ったので、まずチームを辞めようと決めました。すると「毎日決まってここへ行く」という場所がなくなります。どうしようかと思いましたが、必要なトレーニングや練習をする場所が毎回違ってもいいのではないかと発想を転換したのです。すると逆に、「毎日同じ場所に帰ってくる」ことが非効率なのでは?と。それなら一か所に定住せず、行く先々で宿泊するということも含めて、まるごと自分自身をマネジメントしたほうが、行動に制限がかからないのではないかと考えました。こうやって定住する家をなくしたら、その瞬間に「アドレスホッパーアスリート」の誕生です。
合宿や遠征以外の練習は、テーマを決めてひとりでやることもありますが、練習相手が欲しい時には、「〇〇で〇〇時から練習します。一緒にやる人?」とツイートすると何人か集まります。高校生から社会人まで、様々な方からレスポンスがありました。
- ――さらに、全国各地でステップのトレーニング相手を募集してその地に赴き、トレーニングでの動画をアップする「#全国ステップチャレンジ」という活動スタイルに注目が集まっていますね。
- 林セ各地を転々としながらセブンズのためのトレーニングを積み重ねました。ステップはその中の一つです。ラグビーのステップは、ボールを持って走る時にトリッキーな足の運びでディフェンダーを惑わして抜き去るためのテクニッックです。「グースステップ」や「アイランダースステップ」などがありますが、これらのステップを実戦で使いこなせる選手は1割ぐらいとだと思います。
僕はもともと、相手をステップで抜いてかわすという俊敏なプレイヤーではありません。それでもステップに取り組み始めた理由は、セブンズという競技にこのプレイが必要だと思ったことが半分。もう半分は、ステップが成功すると会場がものすごく沸くので、それができるプレイヤーになりたかったことです。
まったく踏めなかったところから練習してだんだん上手くなってきたので、「これはほかの選手にとっても再現性があるのではと思い」、ツイッター上に動画をアップしていきました。実は、ステップのコーチングは国内では行き届いていません。パス、キック、タックル等はどこのチームでも教えていますが、ステップは教えられていません。だから「ステップが踏める人が現れた!」と、徐々に動画を観て注目してもらえるようになりました。
そこで、アドレスホッパーとして各地を転々としている活動と、注目されているステップというスキルを合わせて、「#全国ステップチャレンジ」というハッシュタグでツイッターでの発信を始めました。「ステップの練習をするトレーニングパートナーを全国から募集します!」と大きく打ちだしたら、一気に600件くらい反応があり、全国に活動場所ができました。
行った先でトレーニングして、それを動画として出す。また次の場所でトレーニングして動画をアップする、ということを続けてきた結果が、今の「さすらいのラガーマン」というスタイルにつながったのです。
思いついたら、やってみないと納得できない。
- ――「チームを辞めてしまおう」というのもチャレンジですし、家をなくしたことも「#全国ステップチャレンジ」もすべてが先駆者ですね。前例がないことに挑戦する苦労はありますか?
- 林「トップリーグを辞めるなんてもったいない」という声はよく聞きました。でも僕がキヤノンに残る理由は、もらえるお金しかなくなってしまった。セブンズに賭けたい、そのほうが面白いと思いました。そこで日本ラグビーフットボール協会と直接契約して、協会から「業務委託」を受けたセブンズの代表として活動し始めましたが、報酬はキヤノン在籍時からはもちろん下がりました。それに多くの人は、お金だけでなく「トップリーガー」であることがステイタスだと感じていると思います。だから「並行してできるのに」という声は近しい人からも聞こえてきたし、前例のない活動が理解されなくて、最初は批判もいろいろありました。
でも、これもだんだん覆ってきました。批判があっても自分のやりたいように活動をし続けるには、まずプレーで「あいつは絶対代表からは外せない」と思われる選手になること。もうひとつは、多くのファンを獲得して、ラグビー界に存在感を持つこと。この二つしかありません。そんな思いでSNSも運営してきたし、プレーと両立させようと積み重ねてきました。少しずつ、どちらも実現しつつあると思います。
- ――これほどSNSを駆使しているスポーツ選手は少ないのでは?
- 林合宿の時以外は絶えずSNSに発信して、それに対するフィードバックを受けて、改善した次の打ち出し方をいつも考えています。僕は「はまりやすい」ので、スマホにゲームは絶対入れないし、話題のマンガも読みません。面白いといわれている流行ものには敢えて手を出さないようにしています。欲望を散らばせるのではなく、本当に自分の強い欲望があることに時間とエネルギーをBETします。今は「競技力の向上」と「自身の認知を広げること」ですね。結局はそれが今後の7人制ラグビーの認知や発展に繋がるので。
- ――選ばれるのはいつも、例え思いついたとしても「まさか、これはできないよな」という方法ですね。
- 林ステップの動画をアップし始めたころはほんとに下手でした。上手い選手からすれば、「こんなステップ、誰でも踏めるじゃないか」と冷たい目で見られることは重々わかっていました。でも思い切って出してしまうと、できない人がやるからこそ届くという面もあって、昔の滑って転んでいるシーンとか、ぎこちないステップを出すと、すごく反響があります。ステップが踏めない人、どうすればいいかわからない多くのラグビー選手に届けられているという価値を感じます。
自分の恥や誰からどう思われるかなどという失うものよりも、得られることのほうがずっと多いと実感したから、「迷ったときにはやってしまおう!」というのが自然とできるようになってきたと思います。発信したもの勝ちです。
- 松島からこういう人でした。知らない人から観れば「とがってるな」と思われがちですが、そうやって人と違うことが実際に「できてしまう」。こういうところに魅力を感じるのだと思います。まず「何かやりそうだな」と。そして努力して本当にやってしまう。ラグビーの上での結果もきちんと出している。彼は信用できる、応援したいと思わせてしまいますよね。
最高の舞台、オリンピック。そしてその先を観据えて
- ――オリンピック出場はもう決定しているのですか?
- 林まだ決定していません。これからが勝負です。僕がこのライフスタイルになったのも、オリンピックで「セブンズの熱狂をつくる」という強い原動力があってこそ。ラグビーをやめられない理由は、試合で得られる高揚感に取り憑かれているからです。大舞台であればあるほどそれは大きくなります。アスリートとしての最高の高揚感を感じられる舞台が東京オリンピック。それを味わうためなら、この残り半年、すべての力を尽くして突き進んでいけます。
- 松島会社組織を広く観て全体を俯瞰するのが仕事である自分のような立場の人間から観ると、彼のようにたったひとりで世界を開いていく生き方に、大きな魅力を感じます。
- 林僕への注目はセブンズに還元します。ツイッターでフォロワー1,000人の存在がセブンズの魅力を語っても影響力は知れているけれど、僕のSNSには今は約30,000人のフォロワーがいて、拡散されると数十万人の人たちに届けることができます。まず個人が注目されて、その人が何をやっている人か興味を持ってもらい、そして試合を観てもらう。マイナースポーツの注目のされ方はこれしかないと思っています。
- ――これからチャレンジしたいアイディアはありますか?
- 林「東京オリンピック後」のことも考えています。ワールドカップや東京オリンピックのおかげで、セブンズも徐々に注目されてきましたが、大きな試合やイベントの後で熱が冷めてしまうのはこれまたマイナースポーツのパターン。自分がメインで戦っているセブンズを、オリンピック後も継続して多くの人の楽しみにしたいと考えています。
ひとつには、今やっていることの延長線上になりますが、日本中でステップパートナーを募集してきた「#全国ステップチャレンジ」を世界に広げたいと思っています。いわば「#ワールドステップチャレンジ」ですね。またゆくゆくはセブンズの強豪国であるフィジー、アメリカ、ニュージーランドなどでトップ選手と対戦したり、各地のラグビーチームに参加してプレイしたりすることも考えています。さらには、ステップを必要とする他の競技にも関わっていきたいですね。そのためにはSNSでの発信が不可欠なので、YouTubeにチャンネルを開設して動画配信を始めました。
- ――これからの林選手に、松島常務からエールをお願いします。
- 松島何よりも林選手には、怪我や故障なく、本番を迎えることを一番に祈っております。代表メンバーに選ばれた後、オリンピックという大舞台で大活躍してくれることを私達は確信していますから。
そして今回のスポンサー契約には、大切な二つの側面があります。まずはこの林大成という人間のさまざまな魅力と可能性に賭けて応援できるということ。もうひとつは、東京オリンピックの正式種目になり、しかもワールドカップで大きく注目されている競技の選手を、企業としてサポートさせてもらうということです。
マツシマホールディングスが林大成という魅力あるラグビー選手を応援できることを、ほんとうにありがたく、また誇りに感じています。
このインタビューは、マツシマホールディングスが運営するマセラティ京都のショールームて行ました
PROFILE林 大成 HAYASHI Taisei
1992年6月27日生まれ、大阪府出身。
大阪市立瑞光中学校でラグビーを始め、東海大学付属仰星高校の時にU-17日本代表に選ばれる。東海大学では大学選手権で上位の成績を収め、4年生の時には主将を務める。2015年にキヤノンイーグルスに入団、ポジションはセンター(CTB)。2016年からプロ契約。2018年に7人制(セブンズ)で東京五輪を目指すため退団し、日本ラグビーフットボール協会と7人制専任契約を結ぶ。7人制ラグビー東京五輪代表候補。ポジションはバックス(BK)。176cm、86kg。得意なプレーはステップ。